大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和27年(れ)78号〔1〕 判決 1953年3月17日

本籍

東京都中央区銀座西六丁目一番地

住居

同都港区芝三田四国町二番地の五

会社員

石井有三

明治三五年一二月一五日生

右の者に対する詐欺被告事件について昭和二六年八月三一日東京高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人太田耐造、同桃沢全司の上告趣意(後記)第一点について。

原判決はその引用する第一審判決中、判示第一(六)の被告人に対する詐欺の事実を認定する証拠として、野村昇二郎に対する検事の昭和二三年一月一三日附聴取書中の供述記載を掲げておるが、記録によると原審において弁護人は、右供述者野村昇二郎(同人は第一審においても証人として取調べられていない)を証人として尋問の申請をしているかかわらず、これを却下し供述者を公判期日において尋問する機会を被告人に与えないで、前記聴取書中の供述記載を証拠として採つたものであることが認められるから、所論のような違法なしとは言えない。しかし原判決の証拠中に掲げられた前記聴取書中の供述記載を調べてみると、それは本件犯罪事実を直接に証明すべき内容を有するものではなく、単に他の適法に証拠調を経た証拠の証明力を強めるためのものにすぎないから、かゝる証拠に関する違法は原判決に影響を及ぼさないこと明らかである(昭和二四年(れ)第一九四六号同二五年一月一九日第一小法廷判決、昭和二六年(れ)第六七号同年六月一五日第二小法廷判決、昭和二六年(れ)第一二〇六号同二七年五月一三日第三小法廷判決参照)。それ故刑訴四一〇条一項但書により原判決を破棄する理由とはならないものと認める。

同第二点について

原判決の引用する第一審判決判示第六の(三)によれば、被告人は自己が代表取締役又は取締役社長である判示各会社の取引銀行に内容虚偽の代金請求書を呈示し右銀行の係員を誤信せしめて右請求書と共に呈示された小切手等に判示のような認証をなさしめ、以て右各会社の有する右銀行の第一封鎖預金中より合計四百四十六万六千五百円の払戻を可能ならしめたというのである。本来右の第一封鎖預金は正当な理由がなければ払戻を受けて使用することができないものであるにかかわらず、右のように既に小切手等に認証を受けた上は被告人はその企図したとおりこれを債務の弁済等に充当することができるようになつたのであるから、これはまさしく判示のとおり財産上不法な利益を得たものである。従つて原判決がこれを刑法二四六条二項の罪の既遂として処断したのは正当であつて、所論援用の判例と矛盾する判断を下したものではない。それ故判例違反の主張は採用することができない。その余の論旨は単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条に定めた上告理由にあたらない。

なお記録を調べてみても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よつて刑訴施行法二条、三条の二、旧刑訴四四六条、刑訴四一〇条一項但書に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

検察官 浜田龍信関与

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例